子どもの「なんとなく元気がない」は鉄不足かもしれない──脳と鉄の深い関係

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「やる気がない子」ではなく「鉄が足りない子」かもしれない

授業中にぼんやりしている、すぐ疲れたと言う、感情の波が激しい。

そういった子どもの様子を「気持ちの問題」「性格」として片付けてしまう前に、一度立ち止まって考えてほしいことがある。それが、鉄の不足だ。

鉄欠乏は世界でもっとも頻度の高い栄養素欠乏のひとつとされており、WHOの推計では世界人口の約30%が何らかの形で鉄不足の状態にあるとされている。日本の子どもも例外ではない。しかも厄介なのは、「貧血」という自覚症状が出る前の段階、いわゆる潜在性鉄欠乏の状態でも、脳の機能に影響が出ることがわかっている点だ。


鉄は「血液をつくる材料」だけではない

鉄というと「ヘモグロビン」「貧血」というイメージが強い。確かに体内の鉄の約65%はヘモグロビンの構成成分として赤血球の中に存在し、酸素を全身に運ぶ役割を担っている。

しかしそれと同時に、鉄は脳の神経系に深く関与する微量元素でもある。

具体的には次のような役割がある。

① ドーパミン・セロトニンの合成補助
鉄は神経伝達物質の合成に関わる酵素の補因子として機能する。ドーパミンは意欲・注意・報酬感覚に、セロトニンは情緒の安定・睡眠・衝動のコントロールに関わる。鉄が不足すると、これらの神経伝達物質の産生が滞り、集中力の低下・イライラ・睡眠の乱れとして現れることがある。

② ミエリン鞘の形成
ミエリン鞘とは、神経線維を覆う絶縁体のような組織で、神経信号の伝達速度に直結する。鉄はこのミエリン形成に必要な酵素の構成要素であり、鉄が不足すると神経伝達が遅くなり、思考のスピードや反応速度に影響が出る。

③ エネルギー産生(ミトコンドリア機能) 鉄はミトコンドリア内の電子伝達系においても重要な役割を果たす。細胞レベルでのエネルギー産生が滞ることで、「体は動いているのに頭が回らない」という状態が生じる。


子どもが鉄不足になりやすい理由

鉄の必要量は、成長速度に比例して高くなる。

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、6〜7歳児の鉄の推奨量は男女ともに5.5mg/日だが、11〜14歳の女子では月経の開始を考慮して12.0mg/日まで上昇する。これは成人女性(10.5mg/日)を上回る数値だ。

一方で、現代の子どもの食生活を見ると、鉄を多く含む食品──レバー・赤身肉・小魚・海藻類・豆類──が食卓から遠ざかる傾向がある。加工食品・パン・麺類・乳製品が中心になりやすい食生活では、鉄の摂取量は慢性的に不足しやすい。

さらに見落とされがちなのが吸収率の問題だ。

食品中の鉄には2種類ある。

  • ヘム鉄:肉・魚などの動物性食品に含まれる。吸収率は15〜35%と高い。
  • 非ヘム鉄:野菜・豆・穀類などの植物性食品に含まれる。吸収率は2〜5%と低く、単独では体に取り込みにくい。

非ヘム鉄はビタミンCと同時に摂取することで吸収率が上がる(還元作用による)。小松菜のおひたしにレモンをかける、ひじきの煮物に枝豆を入れるといった組み合わせには、栄養学的な合理性がある。


「潜在性鉄欠乏」という見えないリスク

鉄欠乏のプロセスは段階的に進む。

まず体内の貯蔵鉄(フェリチン)が減少し始める。この段階では血液検査の一般項目(ヘモグロビン値など)は正常範囲内に収まることが多く、学校の健康診断では見逃される。貯蔵鉄がある程度枯渇して初めて、ヘモグロビン値が低下し「貧血」として診断される。

つまり、「貧血ではない」=「鉄は足りている」ではない。

この潜在性鉄欠乏の段階でも、認知機能・注意力・学習効率の低下が生じることが複数の研究で示されている。2001年にLozoffらが発表した研究では、乳幼児期の鉄欠乏が10年後の認知機能や学業成績に長期的な影響を与える可能性が示されており、早期の対応の重要性が指摘されている。


鉄を補う食事の実践

理論の話だけでは終わらせたくないので、日常の食事で意識したいポイントを具体的に挙げる。

鉄を多く含む食品(目安量と鉄含有量)

食品目安量鉄含有量
豚レバー50g6.5mg
鶏レバー50g4.5mg
牛もも肉(赤身)80g2.2mg
木綿豆腐150g1.7mg
小松菜80g2.2mg
ひじき(乾燥)5g2.9mg
納豆1パック(40g)1.3mg

※数値は文部科学省「食品成分データベース」より

吸収率を上げる組み合わせ

  • 小松菜の炒め物+パプリカ(ビタミンC)
  • 納豆+キムチ(乳酸菌が腸内環境を整え吸収を助ける)
  • ひじきの煮物+枝豆
  • 赤身肉のおかず+ブロッコリー

吸収を阻害するものに注意

  • タンニン(緑茶・紅茶・コーヒー):食事中や直後の摂取は非ヘム鉄の吸収を下げる
  • フィチン酸(未加工の穀類・豆類):加熱・発酵で一部分解される
  • カルシウムの過剰摂取:鉄と競合して吸収を阻害することがある

給食に「ひじき」が出る理由

学校給食の献立を見ると、ひじきの煮物が定期的に登場する。これは偶然ではない。

学校給食法に基づく「学校給食摂取基準」では、給食1食あたりの鉄の摂取量が年齢別に定められており、献立はその基準を満たすよう設計されている。ひじきは非ヘム鉄ではあるが含有量が高く、コストと調理のしやすさを兼ね備えた食材として長年使われてきた。

ただし現在、乾燥ひじきについてはヒ素含有量への懸念から、食べすぎへの注意喚起もされている。週1〜2回の適量摂取であれば問題ないとされており、「食べてはいけない食材」ではないが、単一食材への過度な依存は避けた方が良い。


おわりに

鉄は地味な栄養素だ。カルシウムのように「骨が丈夫になる」と説明しやすいわけでもなく、ビタミンCのように「風邪に効く」とキャッチーなイメージがあるわけでもない。

でも、子どもの「なんとなく調子が悪い」という状態の背景に、鉄不足が関わっていることは少なくない。目に見えにくいからこそ、知識として持っておく価値がある。

食卓の一品を選ぶときの「小さな意識」が、子どもの集中力と情緒の安定につながっていく。そういう視点で日々の食事を見直してみてほしい。


参考情報

  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
  • 文部科学省「食品成分データベース」
  • 文部科学省「学校給食摂取基準(2018年改定)」
  • Lozoff B, et al. “Preschool-aged children with iron deficiency anemia show altered affect and behavior.” Journal of Nutrition, 2001.
  • WHO “The global prevalence of anaemia in 2011.” Geneva: World Health Organization, 2015.

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