脳の60%は「脂」でできている
「頭のいい子に育てたい」、多くの親が抱えている思いではないだろうか。
だが実際には、脳の発達に一番大きく影響するのは、教育方針や習い事よりも、毎日の食事かもしれない。
脳の重さのうち、水分を除くと約60%が脂質でできている。骨が「カルシウムでできている」のと同じように、脳は「脂でできている」器官だ。
そのなかで特に重要なのが、DHA(ドコサヘキサエン酸) という脂肪酸だ。名前は難しそうだが、要するに青魚に多く含まれる「いい脂」のことで、脳と目の網膜に特に多く集まっている。
「魚を食べると頭が良くなる」というあの有名な歌は、根拠のない迷信ではなく、栄養学の研究で少しずつ裏付けられてきた話だ。ただし「食べるとIQが上がる」というような魔法ではなく、脳が正しく育つための「材料」として必要、というイメージの方が正確だ。
DHAは脳の「配線」を支えている
子どもの脳は今まさに、毎日ものすごいスピードで発達している。
生まれた直後から、脳の中では無数の「回路」が作られていく。この回路が増えて、つながりが強くなるほど、物事を覚えたり、考えたり、感情をうまく扱えるようになる。学習と記憶は、この「回路の更新」によって起きている。
DHAは、この回路を作るための「材料」として働く。
具体的には、脳の細胞を包む膜の成分としてDHAが組み込まれており、その膜の柔軟性を高めることで、細胞同士の情報のやり取りをスムーズにする。DHAが不足すると細胞膜が硬くなり、情報の伝わり方が鈍くなる。
また、DHAは脳の成長を助けるタンパク質(BDNF)の産生も促す。このタンパク質は「脳の肥料」とも呼ばれるもので、新しい回路を作る際に必要とされる。
難しい言葉を使わずに言えば、DHAが足りていると、脳の回路が作られやすくなる。足りないと、その材料が不足した状態になる、ということだ。

子どもの時期が特に重要な理由
成人の脳はある程度出来上がっているが、子どもの脳は今まさに建設中だ。
特に重要な時期が2つある。
赤ちゃんの頃(生後2年間まで)
この時期が最もDHAの需要が高く、脳の構造が急速に形成される。母乳にはDHAが含まれており、赤ちゃんの脳の発達を直接支えている。お母さん自身の食事が母乳の成分に影響するため、授乳中の魚の摂取が重要になる。
小学生の時期(6〜12歳)
この時期も脳の発達は続いており、特に「考える・判断する・感情をコントロールする」機能を担う前頭部分の発達が進む。授業に集中できるか、友だちとのトラブルをうまく処理できるか──そういった力の基礎がこの時期に形成される。
イギリスで行われた研究では、魚油(DHAを含む)を摂取した学童で、読み書きや注意力に改善が見られたという報告がある(Richardson & Montgomery, 2005)。効果の大きさには個人差があるが、食事でDHAを継続的に摂ることの重要性を示す結果だ。
DHAが多い食品と、現実的な食べ方

DHAを多く含む食品は以下の通りだ。
| 食品 | DHAの量(100gあたり) |
|---|---|
| マグロ(脂身) | 約3,200mg |
| サバ | 約1,780mg |
| イワシ | 約1,340mg |
| サンマ | 約1,400mg |
| サーモン(養殖) | 約820mg |
| アジ | 約570mg |
1日の目安は年齢によって異なるが、サバやイワシを1食に50〜60g程度食べることで、かなりの量をカバーできる。
毎日魚を食べるのが難しければ、週2〜3回を目標にするのが現実的だ。週に数回でも、継続することの方がはるかに重要だ。
また、缶詰(サバ缶・イワシ缶)は価格が安く、保存も効き、調理の手間もほぼかからない。栄養価も生の魚とほぼ変わらず、DHA・タンパク質・カルシウムを一度に摂れる食品として、日常使いに非常に優れている。
「青魚が苦手」な子どもへの工夫
青魚の独特なにおいや食感が苦手な子どもは多い。無理に食べさせることは逆効果になりやすいので、調理の工夫で対応するのが現実的だ。
においを抑えるには
生姜・ねぎ・味噌と一緒に調理すると、においがかなり抑えられる。みそ煮や生姜煮は定番だが、効果が高い。レモンや酢をかけるのも有効だ。
食感を変えるには
フライやカツにすると、衣で食感が変わり食べやすくなる。また、すり身にしてつみれ汁やハンバーグに混ぜるという方法もある。
おにぎりの具にする
サバ缶をほぐしておにぎりの具にするのは、子どもが食べやすい形に自然に変えられる上に、「今日のおにぎりの中に何が入ってるかわかる?」という会話のきっかけにもなる。食育的な観点からも、食べ物に興味を持つきっかけとして面白い。
「植物性オメガ3で代替できる?」という疑問
「えごま油や亜麻仁(アマニ)油でもオメガ3が摂れると」という話はよく出てくる。
これは事実だが、一つ重要な点がある。えごま油や亜麻仁油に含まれるオメガ3は、体内でDHAに変換される必要がある。そしてその変換効率は非常に低く、数%程度にとどまる。
植物性オメガ3に価値がないわけではない。ただ、「魚の代わりにアマニ油を使えば大丈夫」という置き換えにはならない。特に子どもの場合、魚から直接DHAを摂る方がずっと効率的だ。
DHAを「薬」のように考えない
最後に一点だけ。
DHAを単体のサプリメントで補う方法もあるが、魚には他にも多くの栄養素(タンパク質・ビタミンD・亜鉛など)が含まれており、それらが組み合わさって効果を発揮している部分が大きい。
「DHAのサプリを飲めば解決」ではなく、「魚を食べる食習慣を作る」という方向性の方が、子どもの体と脳の発達には本来的だと考えている。
週に2〜3回、青魚を食卓に出す。それだけで十分なスタートだ。
参考文献・資料
- Richardson, A.J. & Montgomery, P. “The Oxford-Durham Study.” Pediatrics, 2005.
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」n-3系脂肪酸
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版」

