子どもの「孤食」が将来に残すもの──ひとりで食べる食卓のリスクと、親にできること

「うちの子、ひとりでごはんを食べることが多くて……」

食育のワークショップをやっていると、保護者の方からこんな声をよく聞く。共働きで帰りが遅い。子どもは塾や習いごとで食事の時間がバラバラ。気づけば、家族そろって食卓を囲む日のほうが少ない。

責められる話ではまったくない。今の暮らしでは、むしろ自然なことだと思う。

ただ、子どもがひとりで食事をとる「孤食」には、将来につながるリスクがあることが、国の調査やいくつもの研究で指摘されている。この記事では、それを整理してみたい。

目次

孤食とは何か──「個食」との違い

孤食(こしょく)とは、家族が不在の食卓で、ひとりだけで食事をとることをいう。

似た言葉に個食がある。こちらは「家族それぞれが別々のメニューを食べること」。
一緒に食卓にはいるけれど、食べているものがバラバラ、という状態だ。この記事で扱うのは前者、「ひとりで食べる」孤食のほうである。

背景には、核家族化や共働き世帯の増加がある。農林水産省の調査では、家族と同居していながら、一日のすべての食事をひとりで食べる日が週の半分以上ある人が約15%にのぼることが報告されている。孤食はもう、特別な家庭の話ではない。

孤食が将来引き起こす5つのリスク

では、孤食が続くと何が起こりやすいのか。公的なデータや研究をもとに、5つに整理する。

1. 栄養が偏る

ひとりの食卓には、「好き嫌いせず食べなさい」と言ってくれる人がいない。

すると、好きなものばかり食べるようになる。農林水産省の調査では、週に2日以上孤食の機会がある人のうち、主食・主菜・副菜をそろえてほぼ毎日食べている人は42.4%にとどまった。

逆に、誰かと一緒に食べる頻度が高い人ほど、野菜や果物の摂取が多く、インスタント食品や清涼飲料水の摂取が少ないことが報告されている。

子どもの体は、毎日の食事でつくられる。この差は、じわじわ効いてくる。

なお、「そもそも好き嫌いが多い」という悩みについては、別の記事で詳しく書いた。あわせて読んでほしい。

2. 肥満・生活習慣病につながりやすい

栄養の偏りの先にあるのが、肥満や生活習慣病のリスクだ。

好きなものだけを、好きな時間に食べる。この習慣は、大人になってからの食習慣のベースになる。子ども時代の食べグセは、思っている以上に一生モノだ。

3. 心の健康に影響する

意外に思われるかもしれないが、孤食は「心」とも関係している。

農林水産省がまとめた研究エビデンスでは、家族と一緒に食事をする頻度が高い中学生は心の健康状態がよいことが報告されている。また、中学生を対象にした国内の研究では、食事中に会話があることが、生活満足度の向上や抑うつの低下と関連することも示されている。

ひとりの食卓は、静かだ。その静けさが積み重なると、情緒の安定に影を落とすことがある。

4. コミュニケーション力・社会性が育ちにくい

食卓は、実は最強の「会話の練習場」だと僕は思っている。

「今日学校どうだった?」「これおいしいね」。なんてことないやりとりの中で、子どもは人の話を聞くこと、自分の気持ちを言葉にすることを覚えていく。

孤食では、その機会がまるごと失われる。家族のコミュニケーションが減ることで、社会性や協調性が育ちにくくなるという指摘がある。

5. 食習慣そのものが乱れる

家族との共食頻度が高い子どもは、朝食を抜くことが少なく、食事の時間が規則正しいことが複数の研究で報告されている。裏を返せば、孤食が多いと朝食欠食や不規則な食事時間につながりやすい、ということだ。

朝食を抜くことが子どもの脳や集中力にどう影響するかは、こちらの記事で詳しく書いている。

「毎食そろって」でなくていい──今日からできる3つのこと

ここまで読んで、「うちはもう手遅れかもしれない」と感じた方がいたら、少し待ってほしい。

大事なのは「毎食そろって食べること」ではない。研究が示しているのは、共食の頻度との関連だ。つまり、回数を少し増やすだけでも意味がある。

① 週に1回、「家族の食卓の日」をつくる

毎日は無理でも、週1回なら。日曜の朝ごはんだけ、でもいい。「この日は一緒に食べる」と先に決めてしまうのがコツだ。

② 一緒に食べられない日は、ひとことを添える

時間が合わない日は、置きごはんに小さなメモを一枚。「おかえり。からあげは2個までね」くらいでいい。食卓に「人の気配」を残すだけで、ひとりの食事の意味は変わると思う。

③ 食事を「つくる側」に巻き込む

一緒に食べられないなら、一緒につくればいい。おにぎりを握る、卵を割る、なんでもいい。食に関わった経験は、そのまま食への興味になる。

ワークショップで子どもたちとおにぎりを握っていて、いつも思うことがある。自分で握ったおにぎりを頬張るときの子どもの顔は、ほんとうにいい。食べることが「作業」ではなく「楽しみ」になる瞬間だ。

まとめ──食卓は、栄養だけを摂る場所じゃない

孤食のリスクを5つ挙げた。

  1. 栄養が偏る
  2. 肥満・生活習慣病につながりやすい
  3. 心の健康に影響する
  4. コミュニケーション力が育ちにくい
  5. 食習慣そのものが乱れる

ただ、僕がいちばん伝えたいのは「孤食=悪」という話ではない。どうしてもひとりで食べる日は、誰にだってある。

食卓は、栄養だけを摂る場所じゃない。「誰かと一緒に食べるごはんはおいしい」という記憶を、子どもの中に積み立てていく場所だと思う。その記憶が、将来の体と心を支えてくれる。

週に1回の食卓から、はじめてみてほしい。


参考文献・資料

  • 農林水産省「食育の推進に役立つエビデンス(根拠)(1)共食をするとどんないいことがあるの?」 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/evidence/togo/html/part4-1.html
  • 農林水産省「平成29年度 食育白書」特集 一日の全ての食事を一人で食べている「孤食」の状況 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/h29/h29_h/book/part1/chap1/b1_c1_1_03.html
  • 農林水産省「食育に関する意識調査」共食や孤食の状況 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/ishiki/h30/3-3.html
  • 内閣府経済社会総合研究所 ESRI Working Paper No.72「社会生活基本調査から見た小・中学生の欠食・孤食と主観的健康」(2024) https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/new_wp/new_wp080/new_wp072.pdf

※本記事は公的機関の調査・公開研究をもとに執筆していますが、医学的な診断・助言を目的とするものではありません。

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