卵かけご飯。
炊きたてのごはんに生卵を落として、しょうゆをひと回し。
お米屋の実家で育った僕にとっては、これ以上ない組み合わせだと思っている。
でも、卵の栄養をいちばん効率よくとりたいなら、実は「火を通したほうがいい」らしい。
今、僕はワーキングホリデーでオーストラリアに来ている。
こっちでは、生卵を食べる習慣は一般的ではなく、州の食品当局も、卵による食中毒の多くは生や半生の卵が原因だと注意を呼びかけている。
同じ卵なのに、国によって扱いがこんなに違うのか。
そこで気になって生卵と加熱卵とで、体の中では何が違うのか調べてみた。
卵は「完全栄養食」でも、食べ方で吸収が変わる

卵は、良質なたんぱく質に加え、ビタミンA・D・B群、鉄、亜鉛などをバランスよく含んでいる。
ビタミンCと食物繊維以外の栄養素をひと通り含むことから、「完全栄養食」と呼ばれることもある。
ただ、栄養は「何を食べたか」だけでは決まらない。体に吸収されて、はじめて栄養になる。
そして卵は加熱するかどうかで、その吸収のされ方が大きく変わる食材だ。
加熱すると、たんぱく質の吸収は約1.8倍に
1998年、ベルギーの研究チームがこんな実験をしている。
同じ量の卵たんぱく質を、加熱したものと生のものとで食べてもらい、どれだけ吸収されたかを比べたのだ。
結果は、加熱卵が約91%。生卵は約51%。
加熱したほうが、およそ1.8倍よく吸収されていた。
たんぱく質は、アミノ酸が複雑に折りたたまれてできている。熱が加わるとこの立体構造がほどけ、消化酵素が入り込みやすくなる。ゆで卵や目玉焼きの白身が白く固まるのは、まさにこの変化が起きているサインだ。
なお、この研究の参加者は5人と小規模で、数字はあくまで目安だ。それでも「加熱したほうが吸収しやすい」という方向性は、たんぱく質の性質から考えても納得がいく。
生の白身にひそむ「アビジン」
もうひとつ、生卵ならではのポイントがある。
卵の白身には「アビジン」というたんぱく質が含まれている。アビジンは、ビタミンB群の一種である「ビオチン」とがっちり結びつき、体に吸収されるのをじゃましてしまう。ビオチンは、皮膚や髪の健康や、エネルギーをつくる代謝に関わる栄養素だ。
ただし、アビジンは熱に弱い。しっかり加熱すれば働きを失い、ビオチンの吸収をじゃましなくなる。
誤解しないでほしいのは、これが問題になるのは「生の白身を毎日大量に、長く食べ続けた場合」だということ。
卵かけご飯をときどき楽しむくらいなら、心配はいらない。
「生卵は体に悪い」わけではない。「加熱すれば、この心配がそもそもなくなる」ということだ。
日本の卵は、なぜ生で食べられるのか
では、食中毒の心配はどうだろう。
卵の食中毒でよく知られているのが、サルモネラ菌だ。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州では、2013〜2020年に卵が原因で起きた食中毒52件すべてが、サルモネラによるものだったと報告されている。
一方、日本の卵は、生で食べることを前提に衛生管理されている。パックに書かれた賞味期限も、「生で食べても問題ない期限」だ。日本の研究では、サルモネラに汚染された卵の割合は約0.0029%、10万個に3個ほどと推定されている。
とはいえ、ゼロではない。
- 買ってきたらすぐ冷蔵庫へ
- 賞味期限を過ぎた卵は、75℃以上で1分以上しっかり加熱する
この2つを守るだけで、リスクはぐっと下げられる。
小さな子ども・高齢の家族・妊娠中の人は「しっかり加熱」が基本
ここは、少し慎重に考えたいところだ。
食品安全委員会は、2歳以下の子ども、高齢の方、妊娠中の方、免疫の働きが落ちている方には、生卵を避けて十分に加熱した卵料理をすすめている。体の抵抗力が弱いぶん、万が一のときに重症化しやすいからだ。
離乳食でも同じ考え方がとられている。厚生労働省のガイドでは、卵は「固ゆでの卵黄」を耳かき1杯から始め、少しずつ全卵へ進めていくとされている。
子どもの朝ごはんについては、こちらの記事でもくわしく書いている。

でも、加熱しすぎには注意!「ちょうどいい加熱」を探す
ここまで読むと、「とにかくしっかり加熱すればいい」と思うかもしれない。
でも、加熱で減ってしまう栄養もある。
黄身に含まれる「ルテイン」は、目の健康に関わるとされる色素だ。
カナダの研究では、ゆでる・焼く・電子レンジのいずれの調理でも、ルテインが約17〜23%減っていた。
加熱は、すればするほどいいわけではない。
僕なりの落としどころは、「白身はしっかり固めて、黄身は火を通しすぎない」
半熟卵や温泉卵は、そのちょうど間にあると思う。
ただし、2歳以下の子どもや妊娠中の方など、しっかり加熱が必要な人がいる場合は、そちらを優先してほしい。
卵の弱点は、ごはんと野菜と果物がおぎなってくれる

栄養たっぷりの卵にも、ほとんど含まれていない栄養がある。ビタミンCと食物繊維だ。
だからこそ、組み合わせで考えたい。ポイントは2つ。
- ビタミンCは熱と水に弱い。加熱はさっと短く、または果物で生のまま足すのがいちばん手軽
- 食物繊維は、野菜・きのこ・海藻・豆、それにもち麦や玄米からとれる
もうひとつ、うれしいことがある。卵の黄身には鉄も含まれているが、植物性の食品や卵の鉄は、そのままだと体に吸収されにくい。ビタミンCを一緒にとると、この鉄が吸収されやすくなる。鉄不足については、こちらの記事でくわしく書いている。

おすすめの組み合わせ
- ゆで卵+キウイやみかん(いちばん簡単。忙しい朝に)
- パプリカと卵の炒めもの(さっと炒めてビタミンCを残す)
- ブロッコリーとゆで卵のサラダ(ブロッコリーはレンジ加熱がおすすめ)
- トマトと卵の炒めもの(子どもも食べやすい中華の定番)
- きのこやわかめの卵スープ(溶け出した栄養もスープごと)
そして、お米屋としてはやはりもち麦や玄米を混ぜたごはんと一緒に卵を食べてほしい。
だし巻き卵でもいいし、目玉焼きでもいいし、そこにミニトマトや果物をひとつ添えれば、それだけで立派な一食になる。
そう考えるとやはり和食はとても栄養価が高いといえる。
卵かけご飯だって、ごはんをもち麦入りにして、のりを添えて、食後に果物を食べれば、ぐっとバランスがよくなる。
卵だけでなく、ごはんと野菜と果物。これで完璧!
まとめ|お米屋が思う、卵とのつきあい方
- 加熱すると、たんぱく質の吸収は約1.8倍に
- 生の白身のアビジンも、加熱すれば心配なくなる
- 日本の卵は生でも食べられる。ただし小さな子ども・高齢の方・妊娠中の方はしっかり加熱
- 加熱しすぎると、減ってしまう栄養もある
生と加熱、どちらが正解という話ではない。
誰が食べるのか。何のために食べるのか。
それによってちょうどいい食べ方が変わる。
おにぎりにも卵はよく合う。甘い卵焼きを食べたり、目玉焼きのお供に食べたり。
「今日はどうやって卵食べようかな」
親子でそんなふうに話しながら考えてみるのも、きっと楽しい。
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参考文献・資料
- Evenepoel P, et al. “Digestibility of cooked and raw egg protein in humans as assessed by stable isotope techniques.” The Journal of Nutrition, 1998;128(10):1716-22. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9772141/
- Medscape “Biotin Deficiency” https://emedicine.medscape.com/article/984803-overview
- 食品安全委員会「卵の安全性;サルモネラについて」 https://www.fsc.go.jp/fsciis/questionAndAnswer/show/mob20110900008
- 食品安全委員会「安心して生卵を食べるために」 https://www.fsc.go.jp/e-mailmagazine/mailmagazine_h2902_r2.html
- 大阪府「サルモネラによる食中毒を防ごう!」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o100110/shokuhin/shokutyuudoku/egg.html
- NSW Food Authority “Why egg safety” https://www.foodauthority.nsw.gov.au/consumer/special-care-foods/eggs-enjoy-safely/why-egg-safety
- 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf
- 日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」 https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_12.html
- Nimalaratne C, et al. “Effects of storage and cooking on the antioxidant capacity of laying hen eggs.” Food Chemistry, 2016;194:111-116. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308814615011498

